[最終更新1999/9/26}

千里救命救急センターにおける、
4例目「脳死」臓器摘出・移植について
全国から193人が、異議申し立て!

{解説}4例目「脳死」臓器摘出・移植

4例目のドナーにされて、「脳死」下で臓器摘出されたのは、和歌山県の50代の男性でした。
この男性は大阪府下で、今年6月19日にくも膜下出血で倒れ、大阪府吹田市・府立千里救命救急センター(太田宗夫所長)に運ばれた。わづか4日目の23日、5日目の24日に2回の法的脳死判定がされ脳死とされた。
第1回目の脳死判定で、脳波測定が、規定より低い感度で測定していたことがわかり、厚生省から指示を受けてやり直すなど重大な脳死判定上のミスが発覚した。 この時、厚生省朝浦室長は「これまでの例で脳波測定が話題になっているのにミスが起き、少なからずショックを受けている」とコメントを発表する事態となった。

この男性の心臓は、状態が悪いとして移植が断念された。
一方、肝臓は、信州大医学部付属病院(長野県松本市)で茨城県在住の劇症肝炎4カ月の女児に移植されることになっていた。
女児は、つくば市からヘリコプターで群馬県の高崎ヘリポートまで搬送され、緊急車両に乗り換えて信州大病院手術室に運ばれていた。しかし、男性から「脳死」下で、臓器摘出した肝臓は脂肪肝で状態が悪く、移植に適さないと判断され、移植の直前に断念した。
結果、この男性から摘出された腎臓のみが、50歳代の女性(奈良県立医科大)と、40歳代の男性(兵庫県立西宮病院)に移植された.

人権救済申し立て書

阪弁護士会人権擁護委員会 御中 1999年6月19日から同月24日までの間、大阪府立千里救命救急センターにおいてなされた脳死による臓器移植行為は著しい人権侵害行為が存在すると思料するためその救済を求めます。
1999年9月22日
申し立て人 岡本隆吉、外192名
代理人 弁護士 冠木克彦
同 弁護士 石川寛俊
被申し立て人 大阪府千里救命救急センター 代表者所長 太田宗夫





大阪府立千里救命救急センター人権救済申し立ての趣旨

被申立人は、同病院勤務医師多数による以下の違法行為がなされたにもかかわらず、その違法性を認めず、もしくは軽視して、臓器提供患者の人権を著しく侵害したので、同事実を確認しここに警告を発する。

    第一、 1999年6月22日15時55分、臓器提供者となる患者(以下、「患者」という)に対し、臨床的脳死診断を なしたが、臓器移植を目的としての判断であるにもかかわらず、臓器の移植に関する法律施行規則(以下、「規則」という)第2条第3項に違反して人工呼吸器をはずし無呼吸テストをなし、患者の身体に対する侵襲行為をなした。 同無呼吸テストは、その前段における脳波測定が「臓器の移植に関する法則の運用に関する指針(ガイドライン)」(以下、「ガイドライン」という)第7、1による「厚生科学研究費特別研究事業、脳死に関する研究班 昭和60年度研究報告書」に定められた感度の1/2でなされたのもであり、患者の人権を形式的にも実質的にも侵害した。

    第二、 上記違法な臨床的脳死診断の後、脳死判定が確定していない段階で、かつ患者の家族への説明・同意もなく抗利尿ホルモンピトレッシン(ADH)を投与して、救命治療に逆行する臓器保存術を施行し脳浮腫を憎悪させ、患者本人をして脳死確定前に臓器提供物体として扱い、患者身体の悪化を増強した外、患者の人格の尊厳を毀損した。

    第三、 上記臨床的脳死診断における違法な無呼吸テスト2回に加え、法的脳死診断における1回の診断においても、脳波測定感度をいずれも謝り、再度の法的脳死診断のやむなきに至り、結局脳死確定前に合計5回の無呼吸テストをなし、患者の身体に不必要の苦痛と侵襲課外行為がなされた。







    申立の理由


    第一、 はじめに

    一、 臓器移植法の制定により、脳死者からの臓器移植が合法化されたが、その合法はあくまで、移植法及び施行規則、ガイドラインで定められた手順と方法に従うことによってはじめて認められるものである。これら法規に定められた手順や方法は臓器提供患者(ドナー)に対する救命治療を保障し、ドナーの身体への侵襲行為をあくまで一定の定められた条件においてのみ認めることによって、ドナーの人権を保障する最低限度の定めである。

    二、ところが被申立人において本件脳死判定の過程で規則等によって定められた最低限度の手順方法を故意に無視し、あるいは一部について、故意に近い重過失にょって違反する行為をなし、しかも、なんら反省の態度を示していない
    被申し立入におけるこれら違反行為がたまたま初体験ともいうべき病院で発生したのならともかく、被申立人は従来から脳死による臓器移植に最も積極的な主張をしていたばかりか、法律施行前においても事実上強行しようとした事実もあり、院内ではマニュアルも作成し、脳死によ臓器移植について熟知していた病院である。その病院においてなされた本件違反行為は、過失と主張している部分も限りなく故意に近い重過失であり、責任は極めて重い。

    第二、事実関係における重要な違反行為

    一、被申立人において、本件脳死による臓器移植の過程で、臨床的脳死診断は、2回行われている(甲第3号証の9,11)。
    この臨床的脳死診断において脳波測定感度の問題があるが、これは後に述べるとして、重要な点は無呼吸テストを行っている事である。記者会見において、太田所長は「各施設の判断にまかされている」(甲第3号証の1,2頁)と述べているが、。これは、規則第2条3項で無呼吸テストを最終にまわすようにした趣旨を全く理解せず、もしくは、無視しているといわざるをえない。同規則の趣旨は無呼吸テストは身体に対する侵襲が強いため、他の脳死判定基準が全て満たされた後、つまりは、脳死がほぼ間遠いなく成立している状態と認められるなら、確認的になされても患者に対する新たなダメージを与えないであろうとの配慮からである。
    したがって、無呼吸テストは法的脳死判断の最終段階で行うべきであり、臨床的脳死判断で使用してはならない。ガイドラインにおいてもその第4,1項において、臨床的脳死診断の場合に「自発呼吸の消失」を除くと明記されているにもかかわらず、被申立人はこれに違反して無呼吸テストを強行したものであり、患者の身体への侵襲行為をなしたものである。

    二、臨床的脳死診断における2回、及び法的脳死診断における1回、計3回の脳死判定において、脳波測定感度を誤った(甲第3号証の9)。脳波測定感度は厚生省脳死判定基準(竹内基準、甲第2号証の1)の75頁に記載されているところ、被申立人病院においてもマニュアルで同基準にしていたが、本件脳死判定においてはその1/2の感度でなされた(甲第3号証関係)。
    脳死は「全脳の不可逆的機能停止」と日本では定義づけられており、脳波が平坦であることは特に必須の要件であるところ、その判定が定められた基準の1/ 2の感度でな亨れたという事は脳死の要件を満たしていない一かかる杜撰な判定によって人の死が定められては汝らない。レかるに被申立人は検査技師のミスとしてすませてあり、反省の弁は語られていない。今後の脳死判定のためにも、重大な警告が発母られるべきである。

    三、甲第1号証の3の新聞記事は以下の事実を伝えている。
      「抗利尿剤の投与
      医師団は21日と22日に実施した臨床的脳死診断(仮の脳死判憲)後に、抗利尿剤ホルモンの投与を始めた目尿量を減らして血液の循環を良くし、臓器を提供に適した状態に保つ薬で、脳の治療には役立たない。脳死力書確定する前に、治療でなく臓器提供を目的にした管理を行ったのではないかとの批判も出そうだ。」
    この抗利尿ホルモン(ADH)を使用したことは詞者会見でも認めている(甲第3号証の1,3真上段)。

      1、ところで、抗利尿ホルモンピトレッシンは頭部重症患者の救命治療に使用されることはなく、逆に脳浮腰に対する治療中はその使用は禁忌とされている(甲第1号証の1)。
      脳死をひきおこレている根本原因は脳の浮腫ヒあるが、その治療の根本原則はできるだけ脱水状態にし液がら、浮腫を軽減するこ&にあるが、抗利尿ホルモンは利尿を抑制し、一書でいえば身体を水ぷくれのような形にしながら、首から下の鱈漿を保つことで、臓器を保存するために使用されるのであるから、「死体」に対してのみ使用できる。

      2.したがって、この救命から臓器保存への方針変更はあくまで脳死判定の確定による「死体」にならなければ使用してはならない。日本移植学会は、1997年4月12日に定めた行動指針(移植マニュアルといわれる)の中で、方針変更の時期を明記し、「脳死が確定し臓器提供の承諾が得られた時点で、主治医及び家族の同意を得た上で行われる」(甲第1考証の2,24〜25頁)と明確に定めた。

      3.しかるに本件では、臨床的脳死診断のあと、6月22日から被申立人は抗利尿ホルモンピトレッシンを使用した。おそらく、医師の判断では「どうせ助かりっこはない」との判断で、それでは次の移植を考えて臓器の保存をすべきと 考えたのであろう。しかし、この方針は許されてはならない。臓器移植という目的があり、そして、どうせ助からないという判断があり、合目的的に手続を進めようとすれば一刻も早く臓器保存に進む方が移植の成績をあげることができる。この問に明確な基準が定められていなければ、限りなく早期に臓盤保存術へ進む事態が進行することになる。

      4、このような事態は、患者の救命治療を早期に打ち切り、医師の臨床的判断だけで脳死者を作りあげる事態に進行することになる。この危険性があるからこそ、上記移植学会のマニュアルは厳格に臓器保存術に転換する時期を、当然のことながら「死体」と確認された脳死の確定(つまり、2回目の法的脳死診断)時期と定めたのである。 したがって、この基準に違反するという事は、まず脳死者ではない患者、つまり、生きている患者に対し「臓器保存物体」としての扱いをしたことになる。

      5、脳死による臓器移植に関係する諸法規やガイドライン、マニュアルは脳死の判定を厳格にして、誤って助かる可能性のある人を死者にしないことを目的にしているが、加えて、法律で定められた「死」であること、及び、その臓器を他に利用するという性格上、ドナーの人権を保護し、その「生」の人権もしかりであるが、「死」の尊厳も保護していることを忘れてはならない。

      6、本件患者は脳死確定前に「死体」として扱われ、単なる「臓器保存物体」として扱われた事により、その全人格の尊厳を毀損されたというべきである。被申立人における本件へのかかる行為が断じて許されない事を明らかにして、このような違法な行為が再びなされないよう厳重な警告を求めるものである。